大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和55(オ)264 判決

主 文

原判決中上告人の敗訴部分を破棄する。

前項の部分につき本件を東京高等裁判所に差し戻す。

被上告人らは、上告人に対し、各八六一万三八九三円及びこれに対する

昭和五四年一二月二八日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

前項の裁判に関する費用は被上告人らの負担とする。

理 由

一 昭和五五年(オ)第二六四号事件

上告代理人堀家嘉郎、同御宿和男の上告理由第一点二、三について

原審の適法に確定した事実関係は、(1) 被上告人らの長男D(昭和二八年六

月二〇日生、以下「D」という。)は、昭和四六年九月当時静岡県立E商業高等学

校(以下「E商」という。)三年生に在籍し、同校における教育活動の一環である

クラブ活動のうちラグビー部に所属してその主将をしていた、(2) 同年九月一二

日(日曜日)、静岡市内の草薙球技場において、国体高校ブロツク予選の全静岡高

校選抜チーム対全愛知高校選抜チームのラグビー公式試合が予定されており、E商

ラグビー部員のうち一名の者が全静岡高校選抜チームの選手として右試合に出場す

ることになつていたため、Dは、これを応援しながら見学するべく競技の仕度をと

とのえて右球技場に赴いた、(3) 同日、草薙球技場においては、右国体高校ブロ

ツク予選

の試合とは別にF協会主催の社会人チームによる試合が予定され、午前一一時四五

分からブイコンチーム対東芝機械チームの試合が行われることになつていたが、ブ

イコンチーム選手に多数の不参加者があつて定数に達しなかつたため、その試合が

中止となつた、(4) そこで、右両チームは、不足する人員を補つて練習試合を行

うことになり、同球技場に居合わせた静岡県立G工業高等学校(以下「G工」とい

- 1 -

う。)のH教諭に対し、来合わせていた高校ラグビー部員による補充を要請した、

(5) G工のラグビー部顧問兼監督であつたH教諭は、クラブ活動の一環として、

同日、G工ラグビー部員のうち全静岡高校選抜チームの選手として出場する部員五

名(うち補欠二名)及びその応援及び見学のための部員七名の合計一

二名を引率して草薙球技場に来ていて前記社会人チームの試合を観戦しようとして

いたのであるが、右試合が中止された場合には社会人チームとの練習試合ができる

ことを予想し、体調不調の部員を除いてユニホーム着用等の用意をさせていた、(

6) H教諭は、社会人チームからの前記人員補充の要請に応じてG工ラグビー部

員に対し「お前ら練習試合をやらせて貰え」と参加を呼びかけたうえ引率して来た

部員中七名をそれぞれポジシヨンを定めて出場者として指名し、さらに付近に居合

わせたE商ラグビー部員に対し「誰か出てやつてくれないか」と声をかけ、Dをス

タンドオフとして指名したほか、他の二名のE商部員をも出場者として指名した、

(7) H教諭に指名された右一〇名の生徒は、直ちにブイコンチームの補充員とし

て東芝機械チー

ムとの練習試合に参加して競技を始めたところ、試合開始後十数分を経過し、Dが

ボールを持つて突進した際、東芝機械チームのIにスマザータツクルされて転倒し、

頸椎第四、第五脱臼及び脊髄損傷の傷害を受け、これによつて翌一三日、静岡市内

の病院で死亡した、というのである。

そして、原審は、右事実関係のもとにおいて、Dの死亡事故に対する上告人の国

家賠償法一条一項の規定による損害賠償責任の存否を判断するについて、G工のH

教諭には他校の生徒であるE商ラグビー部員に対し、当然に指揮監督すべき職務上

の義務はないとしながら、同教諭がDらE商ラグビー部員三名を指名し、右三名の

者をG工ラグビー部員と同様に自己の指揮監督下に置き、この者らをともに社会人

チームの練習試合に参加させたことによつてG工ラグビー部のクラブ活動そのもの

- 2 -

の実施を可能にしたものであるから、Dを右練習試合に参加させたことは、G工ラ

グビー部のクラブの活動の一環として、すなわち、上告人の公務員であるH教諭が

公権力の行使としての職務を行うについてされたものといわなければならない旨の

判断をし

ている。

しかしながら、G工ラグビー部員の右練習試合への参加が、G工のH教諭の指揮

監督の下に行われたことによつて同校のクラブ活動としての意義を有するとしても、

右練習試合における不足人員の補充は社会人チームの要請に基づくものであり、こ

れに応じたDらE商ラグビー部員は、ブイコンチームの一員として右練習試合に参

加して東芝機械チームと競技したにすぎないのであるから、E商ラグビー部員の右

参加がG工のH教諭の呼びかけによるものであるとしても、そのゆえをもつて同部

員が当然に右競技中同教諭の指揮監督下に置かれたものということはできないし、

また、同部員の右参加がG工ラグビー部のクラブ活動そのものの実施を可能にした

からといつて、そのことから同部員がG工のクラブ活動に参加したり、又はそのク

ラブ活

動を補助する関係に立つものではないといわざるをえない。したがつて、H教諭が

DらE商ラグビー部員に対しG工ラグビー部員に対すると同様の指揮監督権を有し

ていたと認められるような特段の事情がない限り、E商ラグビー部員の右練習試合

への参加がG工のクラブ活動の一環としてされたとみる余地はないというべき筋合

であるから、原審が、右特段の事情について何ら審理することなく、単にH教諭が

Dらに対してブイコンチームの補充員として右練習試合への参加を呼びかけ、ポジ

シヨンを定めたというにすぎない事実関係を捉えてDが上告人の公務員であるH教

諭の公権力の行使としての指揮監督下にあつたと判断したことは、公務員の職務行

為に関する法令の解釈適用を誤り、ひいては審理不尽、理由不備の違法を犯したも

- 3 -

のとい

うべく、右違法が判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、この点をい

う論旨は理由があるといわざるをえない。

同第四点について

原審は、先に判示した事実のほか、ブイコンチームは静岡県東部のラグビー愛好

者によつて結成されたものであり、東芝機械チームは年齢二二、三歳の者をもつて

構成されたものであつて両チームとも実力は同県下Bリーグ上位にあり、従つて高

校生に勝る技能、体力を有しているとの事実を確定したうえ、H教諭はDの技能、

体力等と東芝機械チームの実力との関係に配慮することなく練習試合に参加させた

ことにより、技能、体力において勝る成人のIのタツクルを受けたことによつて本

件事故が生じたとし、同教諭にDに対する保護監督の注意義務違反があると判断し

ている。

ところで、ラグビー競技は、球を持つて疾走する相手方をタツクルで倒して球を

奪うことを内容とする格闘技ともいうべき激しいスポーツであつて、競技中相手方

と接触、衝突して負傷、死亡するという事故が発生する危険がないということはで

きないから、高校のクラブ活動として行われるラグビー部の指導者としては、高校

生チームを成年男子チームと対戦させるにあたつては、相手方チームの技能、体力

を考慮するほか、高校生の技能、体力、体調等にも注意し、両チームの技能、体力

等に格段の差があるようなときは、その対戦をとりやめるなどして、両チームの技

能、体力等の差に起因する不慮の事故が起ることのないようにすべき注意義務があ

ることはいうまでもないが、原審は、この点について、Dが補充員として参加した

ブイコンチームの

対戦相手である東芝機械チームについて、単に年齢二二、三歳の者をもつて構成さ

れた静岡県下Bリーグ上位の実力を有するとの事実を認定しただけで同チームが高

- 4 -

校生に勝る技能、体力を有すると認めるのが相当であるとするにとどまり、本件に

おいて、果して同チームの技能、体力が具体的にDら高校生の技能、体力に比較し

てどの程度勝つているものであり、従つて高校生を同チーム相手の練習試合に参加

させることによつて死亡事故等が発生することを予測させるまでの技能、体力の較

差があつたかどうか等について何ら審理しないままたやすくH教諭の前記のような

注意義務違反を認定している点で、原審の右認定判断には、過失に関する法令の解

釈適用を誤り、ひいて審理不尽、理由不備の違法があるものというべく、右違法が

判決の結論に影

響を及ぼすものであることも明らかであるから、この点をいう論旨も、理由がある。

以上の次第であるから、原判決中、上告人の敗訴部分は、その余の論旨につき

判断するまでもなく破棄を免れないというべきであり、さらに叙上の点について審

理を尽くさせる必要があるから、右破棄部分につき、本件を原審に差し戻すのが相

当である。

二 昭和五五年(オ)第二六五号事件

上告人は、本判決末尾添付の申立書記載のとおり民訴法一九八条二項の裁判を

求める申立をし、その理由として陳述した同申立書記載の事実関係は被上告人らの

争わないところである。そして、右事実関係によれば、上告人が原判決により履行

を命じられた債務につきその弁済としてした給付は右条項所定の仮執行の宣言に基

づく給付にあたるというべきであるところ、原判決中上告人の敗訴部分が破棄を免

れないことは前記説示のとおりであるから、原判決に付された仮執行の宣言がその

効力を失うことは明らかである。したがつて、右仮執行宣言に基づいて給付された

各八六一万三八九三円及びこれに対する右支払の日の翌日である昭和五四年一二月

二八日から支払ずみに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求

める上告人の申立は

- 5 -

正当として認容すべきである。

よつて、民訴法四〇七条、一九八条二項、八九条、九三条に従い、裁判官全員

一致の意見で、主文のとおり判決する。

最高裁判所第二小法廷

裁判長裁判官 木 下 忠 良

裁判官 鹽 野 宜 慶

裁判官 宮 崎 梧 一

裁判官 大 橋 進

裁判官 牧 圭 次

- 6 -

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!